第107回   命

2017.7.31
いしだのおじさんの田園都市生活

やっと、やっと、やああっと、雨が降ったね~。

・うん。今日、久しぶりに田んぼに水がたまったよ。先週までカラカラヒビヒビだった。

カラカラヒビヒビ!それでも、稲って枯れないんだ。

・たくましいよね。でも、枯れなくても、穂の数や実の入り方に影響あるんだろうね。

うん。やっぱり、水は大切。

・命の水だよ。他の野菜たちもイキイキしていて、嬉しかったなぁ。今日は。

へぇ、どんな野菜?

・まず、サトイモじゃん。サトイモは水が大好きなんだ。たぶん、雨の中で歌っていたよ。

へぇ?

・雨に日の畑ではね、サトイモの葉を雨がたたいて、水滴が転がって、まるで音楽だよ。

へぇ、行ってみたいね。

・フツーは雨が降ったら畑には行かないわけだけど、実はイインダ、雨の日。

なるほどねー。

・他にも水が好きな野菜、モロヘイヤとか空芯菜とかゴーヤとか、イキイキしていた。

利用者のみなさんも?石ちゃんも?イキイキ?

・うん。なんか、野菜といっしょに、ね。でも、おじさんは夕方にはヘロヘロだった。

ははは。おじさん、だからね。ビール飲んで、少し復活?

・そうだね。野菜食べながらビール飲んでね、これが、夏だよね。

ビール命、野菜命、だね。

・ま、ビールも野菜も、水が大事だ、ね。

だね。

・うん。そうだ、それは、命だからだ。

何?

・命の話をしようか?

何?何?コワいんですけど、、、

・あれから1年が経った。

うん?

・相模原事件。

えっ?

・津久井やまゆり事件。

ああ、、、ちょうど1年だって、テレビでも言っていたね。

・テレビは一過性。1週間もすれば忘れる。

うん。ま、それは、それで、仕方がないでしょ。

・ま、ね。俺も業界の人間だけど、この話題を避けてきているところもある。

うん、あんまり話さないよね。

・何でだろうかね。

何で?

・一つは、業界と業界の外の壁かな。

・俺は日常を福祉の現場で過ごしている。俺にとっては障害者は圧倒的に日常。

うん。

・でも、それは、ある意味特殊な世界。

そうかなぁ?逆にヘンに自意識過剰なんじゃない?

・昔、「特殊学級」って言ってた。

そういえば、そうだね。特殊学級と普通学級。

・障害者と健常者。

うん。

・福祉現場と世間、世間一般、、、

まぁねぇ。

・改めてその話をするわけじゃないけど、、、

うん。

・あの事件は、世間一般からはあっちで起きたことであり、俺たちにとっては、、、

こっちが優先?

・うーん、どうかなぁ?でも、我が社というか我が法人はあの施設をあっちと思っている、、、

・あの施設に入って地域に移行した人はほとんどいない。30年も暮らしている人が多い。

そうなんだ。

・我が社はどんどん地域移行している。

「地域移行」って?

・入所施設からグループホームへ、端的に言うと、、、収容から社会参加へ。

ふうん。なんか、ワケワカメ、になってますが、、、

・業界用語でしゃべってもワケワカメだよね。

話を戻したら。

・あの事件は「特殊な場所で異常な人が起こした事件」としか思われていない。

そうかもしれない。実際、そうだよね。

・そうかもしれない、と思うと、というか、思っちゃって、言葉が出ないんだよ。

ふうん。

・うん。

、、、

・でも、本当はみんなで考えたい、普遍的な問題を多く含んでいるんだよ。

そうなんですか?

・あの事件は突出してるんだけど、実は、障害者は日常的に殺されているんだよ。

ええーっ?

・出生前診断。

ああ、そう、ああ、そうねぇ。

・診断で胎児の障害が判明した場合に中絶を選択する人が9割と言われている。

うん。

・そうした人が、あの犯人を責められるのか?

いや、それは、同じではないでしょ。中絶と殺人は。

・でも、障害を持って生きることを否定している点では共通。

そうかなぁ?

・その9割の価値観が彼を育んだのだろうし、やっぱりつながっているんだよ。

でも、中絶する人たちの気持ちも分かる気がする。

・うん、分かっちゃうんだよね。こっちでは、、、

「五体満足に、元気に」って思うのは普通でしょ。障害でもいいとは思わない。

・そうなんだよ。だけどね、障害があってもいろいろフツーにフツーの人生。

広く解釈できればね。

・あまりに障害者とその家族のフツー姿を知らないで、障害=不幸となっちゃう。

知らなすぎ、はあるよね。

・不幸と決めつけるから、実態も知らないのに、排除してしまう。

でも、中絶したことで苦しむ人も多いみたいだし、、、

・まぁ、公平でじゅうぶんな情報提供とカウンセリングは大事だよね。

命を選別してはならない、とは思うけど。

・答えの出ない問題。だけど、9割というのは、もう答えが出ている状況だよね。

うーん、困ったね。

・変えていきたいところだね。

うん。

・変えるには、実態を知ってもらうことが大事。

うん。

・ま、だから、俺は畑や加工体験をオープンにしているわけだけど。

でも、オープンにしてるとか、カッコつけて、実は手伝ってもらっているんでしょ。

・そうとも言うな。

ははは。

・そして、もう一つは子殺し問題。

えっ?

・親子心中や、心中未遂で子どもだけが亡くなるなどがある。

うん。それも、なんだか、手放しじゃないけど、分かる気がしてしまう。

・?

私も、子どもに障害があったら、心中しようと決めていた。

・、、、

、、、

・重い話だよね。そして、減刑嘆願運動。

・心中するくらい大変だったんだ、と、親に共感してしまう周囲。

あああ、、、

・結果、子殺しをした親の刑を軽くしてほしいと地域や親の仲間が運動したりする。

なるほど、それも分かる。

・じゃあ、障害児は殺されてもいいのか、と、抗議した人たちがいる。

・知的には障害のない脳性麻痺の人たち、横浜に拠点のあった「青い芝の会」。

横浜なんだ。

・うん。俺も直接知っている人がいたりする。

へぇ。

・でも、そういうことじゃなくて、障害=不幸、とか、障害者=不要な者、とか、、、

偏見、ですか?

・いや、偏見というか社会のありよう、というか、、、そこを子どもは感じちゃう。

うん。社会が悪い。なんとかしなきゃ!

・いや、でも、そう言っちゃうと、部外者っぽいというか、評論家チックというか、、、

じゃあ、どうするの?

・自分の立ち位置を考える。

うん。

・それで、急に思い出した。

何?

・俺、なんでこの仕事をしているんだったっけ?

何?

・亡くなったYのことを思って、命を大事にする仕事をしたいと思ったのが始まり。

いつの話?

・もう、30年くらい前からの話だよね。忘れているよ。

ゴクロウサマです。

 

石田周一

いしだのおじさんの田園都市生活